Edonomy Vol.8「KEIHOKU EDONOMY ~『あいだ』を再生する。京都の里山リジェネラティブ・ツーリズム ~」

里山は、都市と自然のあいだに存在し、日本人は日本の暮らしにおいて自然の恵みを暮らしの中にいただきながら暮らしてきた。単に食べ物や資材など生活の糧を得るだけでなく、暮らしを彩る道具も含めて自然の一部になりながら暮らしてきた、まさにエドノミーの知恵が詰まっているのが里山と言える。エドノミーエクスペリエンスは、こういったエドノミーの知恵を体験を通じて知識だけでなく肌感覚で学ぼうという主旨で、志を同じくするIDEAS FOR GOOD、京北のROOTSと一緒に開催した。

京北町は京都市の北西部にある。市町村合併で今は京都市右京区となっているが、京都駅から約1時間半、バスに揺られると到着する。京北は杣人(そまびと)と呼ばれる人々が住まい、平安京建設のための資材を供給していた。ここで切り出された木が筏となって川に流され、亀岡の保津峡を下って嵐山に到着し、そして京都の街を作っていったのである。この資源と物流を確保するために古来の人々は山や川に「適度に」手を加えつづけてきた。自然の循環・回復の許容量の範囲を古来の人々は今よりももっと敏感に感じて、「畏敬」と「感謝」によって暮らしてきた。

今回のエクスペリエンスでは、「里山の知恵を世界につなげる」というビジョンに基づき、京北を拠点に地域の文化や営みを教育プログラムやツーリズムを通じて世界に発信している「株式会社ROOTS」の共同創業者である中山慶(なかやま けい)さんと、曽緋蘭(ツェン フェイラン)さんが案内してくださった。

茅葺きの家での暮らしから学ぶ循環型の暮らし

フェイランさんが暮らす茅葺きの家を訪問した。2010年頃に購入して京北に移住したという。京都の大企業でデザイナーとして働いていたときは、ここから京都市内まで通っていた。移住者として京北で暮らし始めたフェイランさんはこの場を開放し、地域の人と交流するジャズコンサートやヨガ、アイヌ民謡などを約40回実施してきた。食事は持ち寄り。お互いに楽しみながら交流している中で、地域の農家や猟師などと知り合い、そしてその人々が育んできた知恵を学んでいる。

茅葺きの家は、とても風通りが良く、自然のエアコンが効いている。そのため夏はとても涼しい。つまり冬はとても寒い。そのため、フェイランさんは囲炉裏の間に暖炉も入れて、いわば昔ながらの暮らしとのハイブリッドの住まいとしている。一方で、囲炉裏と暖炉の空間は火を囲んで家族や人々が団らんするという本質は変えていない。

天井裏には、毎年蓄積しているという茅(茅)の束があった。これを約10年溜めていき、屋根を共同作業で葺き替える。先を見越して、その時にできること、自然からの恵みを少しずつ蓄積して、将来の葺き替えに備えておく。刹那的な視点で捉えられがちな現代の経済の仕組みとは大きく異なる視点がベースにある。

茅刈から学ぶ自然の恵みをいただくという感謝の心

今回のエクスペリエンスでは、実際にこの茅を収穫し、茅の束を作るという体験を行った。指導してくださったのは、フェイランさんたち家族にも暮らしの知恵を授け続けているマイスターの河原林成吏さん。650年受け継がれてきた茅葺きの古民家を守り、里山の知恵を伝えておられる79歳だ。

河原林さんは、茅と触れ合っていると人は心身ともに健康を保ててウイルスなども寄せ付けないと笑う。それを示すように河原林さんの足腰はしっかりしていた。「茅」と一概に言っても実は茅という植物があるわけではなく、細長い筒状になっている草のことを総称して茅と呼んでいる。その多くはススキであり、今回我々が刈ったのもススキだ。筒状の形状に加え、油分を多く含んでいるため防水効果が高く屋根材として最適な素材なのだ。

茅の刈り方、そして屋根材として使えるように藁で縛る方法をご指導いただき、全員で茅刈りをしていった。やってみて分かったことであるが、茅を刈り、縛るという作業の時点で既に茅葺きの屋根の葺き替え作業が既に始まっているということだ。この時点で蕨(ワラビ)などの雑草を取り除き、茅の量をしっかりと整え、一番下の部分をキレイに揃えてしっかりと藁で縛っておくことで、葺き替え時の作業が効率的になるし、屋根も美しく仕上がる。そしてこれを10年間天井裏で囲炉裏の煙などで乾燥させつつ燻していくことで、防虫効果も高めていく。一つ一つの作業が将来を見越しており、実に効率的で意味があるのだ。

フランス人の視点から学ぶ日本の建築に詰まった知恵

今回は、この京北の里山に魅せられて移住したフランス人の建築家・セバスチャンさんとメラニーさんを訪問した。お二人は地域を巡っている中で見つけた古民家を購入し、少しずつ改修していっている。地元の材木屋さんと交流し、日本の木造建築の技を学び、そのエッセンスをどんどん吸収されている。釘も使わず、図面も用いず、木の一本一本と対話してその特性を踏まえながら組み上げていくという日本の建築は驚きの連続だという。購入された古民家は茅葺きの上に銅板葺がしてあるなど、少し近年の手が入っている部分もあったこともあり、修繕しながら元の茅葺き屋根に戻していくという。そのプロセスで京北の自然に合った建物の形や技を学び取れるからだ。

また、お二人はその学んだ技術を用いて地元の材木屋さんの地元材を用いて馬小屋を自分たちで建てた(!)。この小屋が見事で、まさに釘を使わず、木を組み合わせていく古来からの技である継ぎ手を用いてとても美しく出来上がっていた。庇の角度や長さなど見事としか言いようがない。
昔、この古民家には馬小屋(実際にいたのは牛)が建物内にあり、農耕等にその牛が用いられていた。お二人の取り組みは、ある意味それを復活させたことに近い。

地元の食を美味しくいただき、幸せを感じる

今回のエクスペリエンスでは食も重視。京北の食材をふんだんに用いた素晴らしい食事を提供していただいた。今回の食では、こちらからの希望もあって、地元で捕られた鹿やキノコなどを参加者でスモークする体験などもさせていただいた。すばらしい食を提供いただいた鈴木奈月さんに感謝。
地元の食材を地元でいただくのが新鮮だし、その空気感の中で食べることの美味しさへの影響は計り知れないと思う。「サステナビリティ」が重視されるようになってきた昨今であるが、その根本は実はこのように当たり前のところに存在している幸せを大事にすることではないだろうか。

まとめ

京北では自然と一体となった暮らしが今も息づいていた。まさに里山とはこういうことか!ということを肌で感じられた。夏に力強い緑に溢れていた山々が、今回のエクスペリエンスでは色とりどりに変わり、美しい紅葉の姿を見せてくれていた。そして食もその時の旬の食材を用いて、知恵によって美味しくいただく。このように季節の変化をより当たり前に、敏感に感じられるのが里山なのだ。エアコンで年中同じような気温、温室等で年中同じような食材を食べているような生活は、一見便利・快適なように見えて自然の状態から考えると異常なことである。

もちろん自然は恵みも与えてくれるが冬の厳しさなど恐ろしい一面もある。完全な自然だけの中で人間が生きていくことはできない。それだけ弱い存在であるから、人間は集まって暮らし、支え合い、知恵を生み、進化してきた。里山はこういった自然との「あいだ」に位置している。そして、地域の人々は助け合い、育まれてきた知恵を世代を超えて受け継いで乗り越えてきた。不便益こそが地域の人々の繋がりを育み、そのことが地域ならではの文化を育み、人々の心の幸せを育んできたのではないだろうか。

里山にはこういった自然と向き合い、自然と一体となって暮らす上での知恵が詰まっている。今の地球社会の全体の今後の有り様を考えていく上での叡智はこういったところを体験することから始まる。そう確信したエクスペリエンスとなった。

今後もこういった各地の叡智を体験を通じて学ぶエクスペリエンスを実施していきますので、ぜひご参加ください。

■ツアー詳細

開催日:2021年11月20日(土)〜11月21日(日)
目的地:ROOTS HOME tehen(京都府京都市右京区京北比賀江町水落37)
宿泊先:UMA、TEHEN、ROKU
※宿泊先の詳細はコチラ
※男女別相部屋となります。
旅行代金 (お1人様/1泊4食付き) 38,000円(税込)
※通常価格50,000円(税込)をモニター特別価格にてご参加いただけます。
※なお、上記参加費用には、京北現地までの移動費用(京都駅からバス停「周山」までの費用を含む)は含まれておりません。
主催:ROOTS / IDEAS FOR GOOD(ハーチ株式会社) / COS KYOTO

■ツアースケジュール

1日目(11月20日(土))
09:30:京都駅前のバス停に集合
11:00:「周山」到着・車で移動
11:30:ROOTS「TEHEN」に到着
11:30:参加者自己紹介・ツアー概要説明
12:00~13:00:ランチタイム
13:20~14:10:レクチャー「京北とROOTS」
14:10~14:20:休憩
14:20~18:00:現地フィールドワーク(※①)
18:30~20:00:ディナー
20:00~21:00:1日目振り返り
21:00~:各自入浴・自由時間・ナイトトーク(任意参加)

2日目(11月21日(日))
07:00~08:00:散歩・川遊び(任意参加)
08:00~09:00:朝食
09:00~11:00:現地フィールドワーク(※②)
11:30~12:30:ランチタイム
12:30~13:30:2日目振り返り・アクション宣言・記念撮影
13:40:現地解散(「周山」バス停まで送迎あり)
14:05:「京都」行バスの出発

※1日目・2日目の現地フィールドワーク

・地元農家のご自宅(古民家)訪問
・地元農家の方と一緒に萱刈(かやかり)体験
・ROOTS曽緋蘭氏のご自宅(古民家)訪問
・地元ジビエの薫製づくり

この記事を書いた人

COS KYOTO株式会社

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