昨今話題の「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」
実は、すでに江戸期の日本で実現されていたことをご存じですか?
江戸期においては、たとえば稲作ひとつにしても、刈り取った藁は筵(むしろ)や俵、藁ぶき屋根の材料、壁材、敷き藁、縄のれん、家畜の飼料、燃料として使用後、灰として肥料に用い、お米のもみ殻は、堆肥の材料、洗剤やせっけんとして、家具の艶出しワックスとして、など、モノを無駄にしないリサイクル・リユース(循環型経済)が行われていました。ところが、大量消費社会の発展により、使い捨てがもてはやされ、結果、大気汚染、資源の枯渇など、環境問題に直面してしまいました。
こうした現状から、私たちは江戸期の人々の知恵や工夫を学び、自然のメカニズムのもと、最新技術を融合させていくことが地球規模の危機を回避するひとつの手段であると考え、“Edonomy(エドノミ―®)プロジェクト”をスタートさせました。
そこで、“Edonomyプロジェクトでは、「北林功のEdonomy対談」と題し、京都に拠点を置く工房・工場の方々にお話を伺い、材料や製作過程におけるEdonomyなこだわりとともにEdonomyな生き方を伺う対談を企画しました。
今回は、創業69年を迎え、自然素材にこだわった無添加住宅を提供されている「三浦製材株式会社」の三浦享浩さんです。三浦さんは、「木は社会を変え世界を変える」をコンセプトに、木を通してストレスを解消し、優しい心を育む事を目的とした「ウッドセラピー」も提唱されていらっしゃいます。
※Edonomy(エドノミ―®)とは、Edo(江戸)+Economy(経済の仕組み)を合わせた造語です。
北林功のEdonomy対談 ゲスト:三浦享浩氏(三浦製材)
■日程:2021年11月10日(水)19:00-20:30
■ゲスト:三浦享浩氏(三浦製材)
■会場:オンライン(ZOOM)
■参加費:一般 1.000円(税込)学生500円(税込)
■主催:COS KYOTO株式会社 Edonomyプロジェクト
Edonomyな木材
これまでも三浦さんを訪ね、モノづくりのプロセスや取り組みについてお聞きしてきましたが、今回は「エドノミ―」の観点から伺っていきます。どうぞよろしくお願いいたします。まずは「三浦製材」さんの会社について教えてください。
京都の亀岡市で製材所を営んでおります。昭和27年に父親が起業し、今年で69年目。建築資材販売から住宅建築までを担っており、最近は、里山プロジェクトも始めました。
三浦製材さんといえば、まず「e-BIO(イービオ)」について、ご説明いただけますか?
「e-BIO(イービオ)」とは、弊社で販売している35℃で乾燥させた低温乾燥材です。従来の高温乾燥材(KD材)と比べて色ツヤの良さ、内部割れの少なさなど、優れた特性を持ちます。自分が子どもの頃の木に比べて、大人になってからの木には香りが無くなったことに疑問を感じて調べていったんですね。その原因は、高温乾燥によって、木の細胞が破壊されていることではないかと気づき、研究を始めたところ、40℃で細胞が破壊されているということがわかり、35℃で乾燥させることでその問題が解決することがわかり製品化となりました。
なるほど。その「e-BIO(イービオ)」を使うことでどんな利点があるのでしょうか?
「e-BIO(イービオ)」のすごさを知ってもらために、食パンケースを製作してみました。まずは、こちらをご覧ください。「e-BIO(イービオ)」のケースとプラスチック製のケースそれぞれに無添加の食パンを入れ、カビ発生の比較実験をしてみました。すると、2週間後、プラスチックケースの食パンは見事にカビだらけになりましたが、「e-BIO(イービオ)」ケースの食パンにはカビが発生していませんでした。
これは本当にわかりやすいですよね!!木の本来のパワーのすごさを目の当たりにしました。
私たちも驚きでした。そして、この食パンケースを住宅と置き換えてみてください。どっちの家に住みたいですか?
もちろん「e-BIO(イービオ)」の家に住みたいですよね
そうですよね。健康問題を考えても木の住まいは最高です。それと、木には「フィトンチッド」と呼ばれる植物からでる揮発成分がありますが、興味深い実験があります。京都大学名誉教授である川井氏が、教室の机の裏に杉の木を貼り付け、学生の集中力の変化について調べたのですが、杉の木を貼り付けた木の机に座った学生の集中力が高まり、学力が軒並みアップしたのです。
それはすごいですね!木は、はるか昔から、私たち人類の進化と文明の発展に深く関係してきましたから、やはり木と人間が深い関係にあるということが伺える実験です。では次になぜ今里山なのかについてのお話を伺いたいと思います。
山と町をつなぐ木のプロジェクト
今や花粉が問題視されている杉ですが、昭和20年後半から30年代頃、国からの補助金が出て大量に植樹したそうです。杉はヒノキなどよりも成長が早いため選ばれたようです。現在、山から木を切り出してお金に変えていくということを促進する動きはあるのですが、一方で、木を新たに植えるということが弱くなっていて、いずれはげ山となってしまう危機感を覚えます。そこで、「山と町をつなぐ木のプロジェクト」を立ち上げようと思いました。
それは具体的にはどのようなプロジェクトですか?
「山の木を植えよう!」というメッセージだけでは集まらないので、まずは、里山について知ってもらうため、山に入ることから始めたいと思っています。山には木の実やキノコ、タケノコ、やまいもなどの食べ物があることがわかります。また、木を切って薪を作り、炭焼きをします。楽しみながら里山を知ってもらい、植林の大切さを知ってもらおうというわけです。
それは素晴らしい活動ですね!個人的にも炭づくりには興味があります。炭は不思議ですよね。薪だと450℃にしかならないところ、炭だと1000℃にもなり、そのおかげで鉄が作れたわけですから。
そうですね。昔の人はなぜそれを知っていたんでしょうね。そうした知恵を活かすことが面白くカッコいいという流れが作れたらとも思っています。
先日、九州椎葉村の焼き畑のシーンを動画で観たのですが、その際、山に向かって拝んでいるシーンが印象的でした。三浦さんも伐採時にはそうしたことはされているのでしょうか?
もちろんします。当たり前のことですね。里山への感謝の気持ちは大事ですので、木の神様を拝み、お酒をまいたりしています。
そうなんですね。経済性・効率性だけだとそういう行動にはなりませんよね。
そうですね。最近は早く育てて早くお金にしたいために木材の品種改良もおこなわれていたりします。そのため、昔に比べると木の成長が早いんですね。しかし、そこには落とし穴もあります。緻密度が荒くなるのです。同じ太さで年輪が詰まっていないので、それは当然強度にも影響します。
なるほど…。それは問題ですね。ちなみに三浦さん自身は山をお持ちなのでしょうか?
自分で山を持っています。
木材はご自身の山から伐採してるのでしょうか?
いいえ、原木市場から買っています。市場でセリで落としています。今や、日本の山は経済の山になってしまいました。山はいったん人の手が入ってしまうと、手を入れ続けなければなりません。
森林整備は大事ですね。土砂災害の防止、温室効果ガスの削減機能、動植物や川、海の生態系の健全化にもつながりますし。そうしたこともふまえ、まずは里山を知るということはとても大事ですね。
そうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!これを機に、三浦さんの製材所がある京都・亀岡を訪ね、実際に里山に入り、木の伐採や炭焼を体験するラーニング・ツアーなども企画していきたいと思いました。みなさま、ぜひご期待ください!