ONLINE KOBO Vol.7「ドイツの学生のための絞りと染色のワークショップ」

コロナ禍により、アートやモノづくりの世界でも、これまでの創作の営みや交流が制限されるようになりました。
そうした中でも国内外のアーティストやクリエイターらが距離と言葉を越え、”工芸”を通じて交流することで、新たな視点、アイデアの創発につなげたいという想いから、ゲーテ・インスティトゥート(Goethe-Institut)様とCOS KYOTOは「ONLINE KOBO」を企画いたしました。
そこで今回は、ドイツのドレスデン造形美術大学・舞台美術クラスの1コマとして、京都の「染」の歴史や絞り技法などの講義と、実践ワークショップをオンラインにて開催いたしました。
※ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都(Goethe-Institut)は、ドイツ政府が設立した公的な国際文化交流機関です。

オンライン工房 Vol.7 概要

・日時:2021年5月12日(水)・19日(水)
・会場:オンライン(ZOOM)
・講師:<絞り> 田端 和樹 氏(たばた絞り)、<染色>田中 直輔氏(田中直染料店)
・参加者:ドレスデン造形美術大学 舞台美術専攻の学生20名

1日目:日本の染の歴史と技法についての講義

江戸時代においては、きらびやかな織物は「奢侈禁止令」により上流階級のみが許されるものとなったため、庶民は「染め」でファッションを楽しむようになりました。
「染め」の色の中で最も好まれたのは「藍色」でした。
藍色には濃淡の違いにより48色あり、その中の一つの色である「褐色(かちいろ)=勝ち色」は縁起がよいとして武士が好んで身に着けていたそうです。

オンラインでの講義の様子。逐次通訳を交えてスムーズに行われた

このことから、サッカー日本代表の「サムライブルー」も誕生したとか。
さらには、ジーンズの染色等に用いられるようになった化学染料の「インディゴピュア」は、ドイツで発明され、日本を始め全世界に広まったことなど、興味深いエピソードも語られました。
また、染色の技法については、模様染の一種である「絞り染め」を紹介。
一つ一つ丁寧に手作業で進められる過程を、京都の絞り染め職人の中では最年少(40歳)となる田端氏の実際の作業の様子を動画と解説で紹介しました。
小学校の段階でクラフトを職業として選択するかどうかが決まるドイツと比較し、田端氏が紆余曲折を経て現在の絞り染め職人となった経緯などの紹介もあり、田端氏への質疑も行われました。

オンラインでの実演を交えた講義の様子

2日目:絞り染めの実践ワークショップ

2日目は、田中氏による「染」のワークショップでした。
国際便であらかじめ送付した染料と絞り染めの道具類などを用いて、学生が絞り染めにチャレンジしました。(ドイツへの輸出規制をクリアしつつ、コロナ禍で輸送が滞る中での資材の選択と輸送の調整が困難でしたが、田中様・ゲーテインスティトゥート様・輸送会社のご協力で実現できました)
オンラインの画面でのやり取りを通して、実際の作業のポイントなどをできる限り詳細に伝えていくために、スマートフォンなどによる撮影も工夫しながらポイントを伝えていきました。

実際に絞り染にチャレンジする学生たち

絞り染の工程は、
①染料の準備
②絞り(細工)
③染色
④染料を洗い流す
⑤染料を定着させる
⑥乾燥
という手順で行います。
また、染料には顔料と反応染料との違いがあることなども説明し、学生たちも染めの仕組みについて理解を深めていました。

完成した作品を披露する学生たち

ドイツの学生たちは思い思いのデザインで絞り染を行い、様々な独創的なデザインの絞り作品を作り上げていきました。
仕上がった作品は、最終的にはすべてをつなぎ合わせ、ピクニックシートにする予定です。
どんなシートになったのか、ドイツからのレポートも楽しみです。(京都での展示も予定しております。)

学生たちとの質疑の様子

今回の「ONLINE KOBO 特別版」実施のきっかけは、ゲーテ・インスティトゥート様とCOS KYOTOが昨年実施した「ONLINE KOBO Vol.6 -京都ほづ藍工房-」の回を、ドレスデン造形美術大学の先生がご覧になり、大変興味を持たれたことでした。
「この日本の藍染をぜひ学生たちに体験させたい!」ということで打ち合わせを重ねる中、以下の課題が浮き彫りになりました。
①ドイツに専門の職人がいない中、現地で本格的に藍を天然発酵で染料として使えるようにすることは至難の業であること
②天然発酵ではなく化学染料の力を使って藍染を行う方法があるが、特殊な薬品を使用せねばならず、その薬品をドイツに輸出するには規制があること。
上記の課題を踏まえ、ドイツの学生のみなさんに日本の染めを学んでもらうにはどうしたらよいものかを今回講師としてもご協力をいただいた田中直染料店の田中直輔さんにお力をお借りしながら検討を重ね、最終的に空輸も可能な「顔料」を使った、絞り染めを体験していただくことになりました。
ワークショップを終えて感じたのは、講義だけで終わるのではなく、講義の後に染め体験を行うことによって、学生たちの理解度が深みを増すということ。また、日本の文化である絞り染めとドイツの学生たちの感性やセンスが混ざり合うことによって、新しいものや面白いものが生まれていくということです。
「とても興味深くて楽しい授業だった」「日本に行けるようになったら、今度は現地で日本の天然の藍染めを体験したい」「今回だけで終わらず、来学期や来年度も引き続きお願いしたい」といった声もいただき、大変有意義で深い文化交流ができたのではないかと感じています。
最後になりますが、色々なハードルがある中で一緒に企画を進めてくださった田中直染料店の田中直輔さん、絞り染めをイチから教えてくださった、たばた絞りの田端和樹さん、そしてホスピタリティのある大変わかりやすい通訳をしてくださった株式会社ROOTSの中山慶さん、本当にありがとうございました。

【CREDIT】
・主催:ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都(Goethe-Institut)
    ドレスデン造形美術大学
    COS KYOTO株式会社
・協力:一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会
・企画・調整・ファシリテーション:北林功、北林佳奈(COS KYOTO)
・逐次通訳:中山慶(株式会社ROOTS)

この記事を書いた人

COS KYOTO株式会社

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