昨今話題の「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」
実は、すでに江戸期の日本で実現されていたことをご存じですか?
江戸期においては、たとえば稲作ひとつにしても、刈り取った藁は筵(むしろ)や俵、藁ぶき屋根の材料、壁材、敷き藁、縄のれん、家畜の飼料、燃料として使用後、灰として肥料に用い、お米のもみ殻は、堆肥の材料、洗剤やせっけんとして、家具の艶出しワックスとして、など、モノを無駄にしないリサイクル・リユース(循環型経済)が行われていました。ところが、大量消費社会の発展により、使い捨てがもてはやされ、結果、大気汚染、資源の枯渇など、環境問題に直面してしまいました。
こうした現状から、私たちは江戸期の人々の知恵や工夫を学び、自然のメカニズムのもと、最新技術を融合させていくことが地球規模の危機を回避するひとつの手段であると考え、“Edonomy(エドノミ―®)プロジェクト”をスタートさせました。
この度は、「Edonomy対談」と題し、京都等に拠点を置く工房・工場の方々にお話を伺い、材料や製作過程におけるEdonomyなこだわりやEdonomyな生き方を伺う対談を企画しました。
初回は、万葉集の時代から日本人の暮らしに欠かせない道具として使われてきた 「すだれ」を製作されている「京すだれ川﨑」の川﨑音次さんです。1時間半にわたって参加者以下、対談の内容の抜粋をまとめましたので、ぜひご一読ください。
※Edonomy(エドノミ―®)とは、Edo(江戸)+Economy(経済の仕組み)を合わせた造語です。
北林功のEdonomy対談vol.1 ゲスト:川﨑音次氏(京すだれ川﨑)
■日時:2021年9月28日(火)19:00-20:30
■ゲスト:川﨑 音次 氏(京すだれ川﨑 代表)
■会場:オンライン(ZOOM)
■参加費(税込):1.000円(学生500円)
■主催:COS KYOTO株式会社 Edonomyプロジェクト
Edonomyな「すだれ」
これまでも川崎さんを訪ね、モノづくりのプロセスや取り組みについてお聞きしてきましたが、今回は「エドノミ―」の観点から伺っていきます。どうぞよろしくお願いいたします。まずは「京すだれ川﨑」さんの会社について教えてください。
当社は京都府亀岡市にございます。創業は昭和47年、神社用やインテリア用のすだれなどの製作・修理を生業としております。
すだれの効果や魅力とはなんでしょうか?
すだれは日よけはもちろんのこと、ほこりよけ、目隠し、雰囲気を変えることや室温を下げることにも役立ちます。室温が2度から5度も下がるようです。それから、身分の高い人などの前にすだれをかけたのですが「透けそうで見えにくい、あいまいな空間をつくる」というのも魅力ですね。
昨今では、すだれが揺れないように固定して使う人も少なくありませんが、すだれが自由にゆらゆらと動くようにすることで風を起こすだけでなく、痛みにくくなるので、すだれを長持ちさせることにもつながります。これは人間関係と同じで適当に揺れた方がいいんですね。(笑)
すだれも人間関係もある程度ゆるいことは大事ですね(笑)。ちなみにすだれはどれくらい使えるのでしょうか?
屋外仕様で5年から7年が寿命と言われていますね。素材がしっかりしているものは、編み糸を交換すれば再利用可能です。御簾と呼ばれる室内用のすだれは修理しながらだど、約50年-70年ほど保ちます。中には100年保つものもありますね。
それは素晴らしいですね。どんな編み糸を使われているのでしょうか?
麻糸と綿糸です。人工素材は丈夫かもしれませんが、うちは麻や綿にこだわっています。麻は水に強く、綿糸は染めやすいためです。ちなみに日本国内では赤色が好まれる傾向にありますが、海外では青色が好まれますね。
やはり日本の文化には、麻は欠かせませんね。縁(ふち)は手縫いですか?
はい、手縫いです。大量生産のものはミシン縫いですが、それだと素材を痛めてしまい修理できなくなりますので、うちは手縫いにしています。
着物などの場合もそうですが、修理を想定した設計や縫製は長持ちさせる上で大事ですね。
すだれの編み工程は機械でされていましたよね?
そうですね。現在うちの工房には11台の編み機があります。そのうち新品で購入したのは2台で、あとの9台は廃業された方から引き取ったり買い取ったりしてきました。
すだれやさんは少なくなっていっているんですね。一番古い編み機はどれくらいのものですか?
一番古いのは80年前の機械ですね。それでも今の機械とほぼ変わりませんね。
すだれは、地域ごとに編み方などが異なると聞きましたが、どう違うのでしょう?
材料として使用する葭の部位が違います。長い葭の中で一番いいところは(天皇さんがいらっしゃった)京都で使います(笑)。残りの部分を次に大阪、そして名古屋と使われてきました。部位にとって特徴が異なるので、それに合わせて編み方も違ってくるわけです。
それはヨーロッパにおける革の使われ方にも似ていますね。一番いいところはハイブランドから使われていくという。
そうですね(笑)。大事なことは、そうやって1本の葭を余すことなく使い切ってきたということです。
Edonomyな素材「葭(よし)」
材料の葭(よし)は日本産ですか?
うちは琵琶湖産の葭を使っています。ホームセンターなどで販売されているすだれの多くは、中国産の葭で作られていますね。
琵琶湖産と中国産の葭の違いはなんですか?
中国産は手入れをしていないものが多いので、真っ黒なシミがついているものが少なくありません。
琵琶湖では葭の育成をどのように行っているのでしょうか?
葭は1月から3月までに刈り取り、風の少ない3月に野焼きをします。野焼きの目的は、害虫駆除と雑草などのつるを焼くことです。野焼き後の灰は次世代の肥料となり、美しい葭が育ちます。昨今ではこの地域の周辺に住宅が増えて野焼きがしにくくなり、よい葭を仕入れることが難しくなってきました。
外国ではこういった文化的景観を守るため、そうした環境を受け入れる人しかそのエリアに居住できないといった規制がとられているところも増えてきていますね。琵琶湖でもそうあって欲しいものです。
葭は地下茎でつながっているため、よい葭はそこでしか育ちません。根っこごと他の土地に移植しても、土地が合わなかった場合は育ちません。
人間も「水が合わない」ということもあるのと同じですね。葭屋さんも少なくなっているそうですね?
葭屋さんも高齢化しています。うちが取引をしている「西川六左衛門さん」は87歳で、「あと5年はがんばる」と言ってくれていますが。
87歳ですか!次世代への継承も大事になってきますね。
葭は湖の生態を守っているとも聞きます。
葭は窒素やリンを吸い上げます。つまり、葭を使うことにより、葭の生育環境が守られます。それは琵琶湖を守り、私たちの飲料水を守り、命を守ることに繋がるということでもあります。
なるほど。確かにそうですね。そういった意味でも私たちが生活の中で琵琶湖産の葭を用いたすだれを使うことはもとより、「葭刈り」などに参加することで、葭とともに琵琶湖の生態系への関心も深まるかもしれませんね。
今後はそうした体験を通じて学ぶツアーなども企画したいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
▼北林 功(COS KYOTO(株))
自律・循環・持続する心豊かな社会の構築のために地域の自然・風土に根付くモノ・コトをグローバルに伝えていくことを目的に、地場産業の販路開拓や各種ビジネスコーディネート、国内外との文化交流イベントの企画・運営等を手掛ける。